焼香とは──香に込める祈りと弔いのかたち

葬儀や法事で行われる「焼香(しょうこう)」
お香を焚き、仏様や故人に祈りを捧げるこの所作には、深い意味と長い歴史が息づいています。日常ではなかなか触れる機会が少ないため、初めての場では緊張する人も多いかもしれません。
しかし、焼香の意味や作法を知っておくことで、落ち着いて心を込めてお見送りができるようになります。

焼香の由来と意味

焼香とは、仏前でお香を焚き、香の煙とともに敬意と感謝、そして冥福を祈る行為のこと。
お香の香りには心身を清める力があるとされ、清らかな気持ちで仏様に向き合う意味が込められています。さらに、お香は「あの世での食べ物」とも考えられ、故人への供物という役割もあります。
焼香の起源は約2500年前、仏教発祥の地インドにあります。当時は高温多湿な気候の中で、体臭を和らげるために香が使われていました。やがて遺体の臭いを消す目的で葬送の場でも焚かれるようになり、「香で清める」という考え方が仏教の教えと結びついていったのです。

焼香の基本的な作法

焼香の仕方には、立って行う「立礼焼香」、座って行う「座礼焼香」、香炉を回して行う「回し焼香」があります。葬儀の会場や宗派によって形式が異なります。

立って行う焼香

  1. 順番が来たら祭壇の前へ進む
  2. 遺族・僧侶に一礼
  3. ご本尊・遺影に一礼
  4. 左手に数珠をかけ、右手で抹香をつまむ
  5. 香炉に抹香を落とす(宗派により額に押しいただく場合も)

合掌し、ご本尊・遺影に一礼して席へ戻る

座って行う焼香

正座のまま焼香を行う場合は、膝を使って静かに前進(膝行)し、焼香を終えたら後退(膝退)して下がります。動作はゆっくりと、静かに行うのが基本です。

回し焼香

参列者の間で香炉を順番に回して行う方法です。香炉が自分のもとに来たら会釈をし、焼香・合掌を行ってから隣の方へ回します。最後の人は香炉を喪主へ戻します。

宗派による焼香回数の違い

宗派回数意味
浄土真宗本願寺派1回「死は一に帰る」という教えを重視
真言宗・天台宗3回仏・法・僧の“三宝”を表す
曹洞宗2回1回目は故人の成仏を願い、2回目は香を絶やさないため
日蓮宗1回または3回香をたくことで「南無妙法蓮華経」の信心を表す

回数に正解はなく、最も大切なのは「心を込めて祈ること」。
作法にとらわれすぎず、静かに合掌する気持ちを忘れないようにしたいものです。

神式の弔い──玉串奉奠(たまぐしほうてん)

神式の葬儀では、焼香の代わりに「玉串奉奠(たまぐしほうてん)」が行われます。
玉串とは、榊の枝に紙垂(しで)を添えたもので、神様や故人に捧げる供え物です。

玉串奉奠の流れ

  1. 遺族・神職に一礼
  2. 玉串を受け取り、左手で葉を下から支え、右手で枝を上から持つ
  3. 胸の高さに玉串を上げて祭壇の前に進み、一礼
  4. 右手を返して玉串を180度回し、根元を祭壇側にして台に捧げる
  5. 三歩下がり、二礼
  6. 音を立てずに二拍手(しのび手)
  7. 再び一礼し、数歩下がって遺族と神職に一礼して席に戻る

神式では「静かに祈る心」が重んじられます。
手順よりも、感謝と鎮魂の気持ちを大切にすることが何よりの供養です。

キリスト教式の弔い──献花

キリスト教の葬儀では、「焼香」にあたる行為として「献花」が行われます。
花を手向けることは、故人への追悼と神への感謝の祈りを表すものです。

献花の流れ

  1. 遺族に一礼し、両手で花を受け取る(右手で下、左手で上から支える)
  2. 献花台の前で一礼し、花を時計回りに回して花が手前を向くようにする
  3. 両手で花を献花台に捧げる
  4. 一歩下がって黙祷、または軽く一礼
  5. 遺族と神父(牧師)に一礼して席に戻る

カトリックでは、献花の際に胸の前で十字を切る場合があります。信者でない方は、黙礼だけでも構いません。
花の香りとともに静かに祈るその時間は、心を落ち着かせ、故人を想う大切なひとときとなるでしょう。

焼香だけして途中で退出してもいい?

通夜の場合は、焼香だけ行って早めに退席しても差し支えありません。その際は、遺族に一言「お焼香だけで失礼いたします」と伝えるのが礼儀です。
一方、告別式ではできるだけ最後まで立ち会うのが望ましいとされています。どうしても都合がつかない場合は、事前に遺族の了解を得てから退出するようにしましょう。

祈りの形は違っても、込める思いは同じ

仏式の焼香、神式の玉串奉奠、キリスト教式の献花──
宗教や儀式の形は違っても、いずれも「故人を想い、敬意を捧げる」という気持ちは共通しています。

大切なのは、形式よりも心。
香をたき、榊を捧げ、花を手向けるその瞬間に、静かに故人を偲ぶ気持ちを込めましょう。

「心を込めて祈る」
それが、何よりの供養なのです。